「自分に出来ること、希望を持ち続けること」

 私は、文章を纏めるために、数日想い悩みました。

でも、ポーズかも知れません。何の答えも出せなかったのですから・・・



 手元に資料は集まりました。課題も見えてきました。しかし、私には纏める事は出来ませんでした。何故かと言えば、私が職人だからです。

 業界全体を語るのは、無責任となり説得力はありません。他人への希望など、誰も聞きたくはありません。



 自分は何を言いたいのか、自分に何が出来るのか・・・書き上げた文章も、次々と崩れていきました。



 昨年8月に、大阪洋服同志会・夏期講習会がありました。その時、ヨナベして書き上げた文章があります。



『 今年5月のある日、ある先生から・・・

「こんなアルバムがあるけど、見てみるか?」何気なく見せていただいた写真は、1955年京阪神連合・紳士服技術コンクールのスナップ写真でした。終戦間もない昭和30年代の、熱気溢れるコンクール場面が、私には、羨ましく感じていました。「もう、この時代には、戻れない」と、思っていたのです。



 私は、本年5月から、マイスター・ファクトリー教室で、週一回講師を努める事になりました。教室では、6人の若い生徒さん達が目を光らせて紳士服の勉強をしています。

 縁あって教室を受け持つ事になりましたが、これまでお世話になった紳士服業界への恩返しのつもりで、若い人たちに技能を伝える役目を担う事となりました。

 「もう、この時代には戻れない」と、心に浮かんだ私は、若い人達に失礼だったと思わずには居られませんでした。

 戦後何もなかった時代に、日本人の知恵と熱意が経済大国へと進んでいったように、今の若い人達にも、変わらない未来があります。



 時代は、トルネード、同じ山は二度と来ることは無いでしょう。しかし、経験と工夫は熟練者が、発想とエネルギーは若者が、それぞれの能力と役割を活かすなら、終戦間もない熱気に負けない時代が見えてくると、心新たに教室へ通っています。



 本日の講習会では、「技能アイデア」(水飴ジャケット)を、ご提案いたします。

 「技能」は、一言でいうなら、経験を重ねる生産法です。非能率的な生産であっても一工程に意味があり抜く事は出来ません。一方、「技術」は、技能を分析し、ムリ・ムダ・ムラを省いた、能率的な生産法です。どちらにも、利点はありますが、生産される製品に、見た目が区別しにくい事から、市場が生産性の高い「技術」へと向かうのは仕方のない事でしょう。

 「良いものを安く」と時代は流れ、モノ余りとなった現象は、技術重視の限界も見えてきたように思います。

 今こそ、人の手が織りなす「技能」が、ものづくりに活かされ、魅力ある製品として市場から注目を浴びるのも、夢ではありません。



 「技能アイデア」は、素材を活かすために工夫した縫製です。表素材は「バージン・ストレッチ・ウール」と、称される厄介な生地です。表素材の特徴が読めるなら特徴を活かす縫製法はあります。

 「張りと緩み」「直線と曲線」「熱と蒸気」の、素材現象を、正しく理解する事です。

 正しい縫製とは、パターンを忠実に立体化することと、素材を活かす事です。



 お客様のご要望は、接客・サービスを受け持つ販売員のお仕事です。デザインバランスは、パターンナーのお仕事です。心を込めての一着縫いは職人の仕事です。

 三者のハーモニーは、心豊かな着やすく美しいシルエットのジャケットとして、形を成すことでしょう。 』 (昨年、大阪洋服同志会・夏期講習会、資料より)





 先生に見せていただいた、アルバム写真です。

1955年、第9回となっています。





受付の写真ですが、作品受付番号が、450番まであります。





そして、審査が始まります。







私には、神様的存在の、杉山静枝先生です。





人台作品には、命さえ感じられます。











そして、現代も紳士服への熱意が消える事はありません。



 昨年の資料を読み返しても、同じ気持ちで毎日を過ごしているように思います。成長が無いのか、継続は力となっていくのか、私には分かりません。



 

 30日に、大阪洋服技能士会の勉強会があります。

今年2月に、技能グランプリの栄冠に輝いた、坂本眞一氏と一緒に参加された皆さんの作品が展示されます。これまでのグランプリ作品として私たちの作品も展示させていただきます。

 大阪・技術団体の合同勉強会となっていますので、人台作品に興味のあるお方はご参加ください。



 30日の、14時〜16時まで、大阪洋服会館4階で行われます。

今回で、このような内容の勉強会は、最後となるかも知れません。

 「そんな、淋しいこと言うなよ!」

 そうなのです。私が纏め上げようとしていたテーマが、「・・・」淋しすぎるテーマは書けません。



 「自分に出来ること、希望を持ち続けること」、私が、たどり着いた答えです。


写真が、上手く載せられませんので、こちらで・・・

http://blogs.yahoo.co.jp/arutizan2010/11352992.html