一つの証を残す、努力をしました。

私は、講習会のテキストに、想いを込めました。
想いが伝わるのかは、分かりません。


でも、指の痛みと足腰の痛みが残っているは、何かをやり終えた証です。
テキストの1ページを、載せさせていただきます。


今年5月のある日、ある先生から・・・
「こんなアルバムがあるけど、見てみるか?」何気なく見せていただいた写真は、1955年
京阪神連合・紳士服技術コンクールのスナップ写真でした。終戦間もない昭和30年の、熱気あふれるコンクール場面が、私には、羨ましく感じていました。「もう、この時代には戻れない」と、心で思っていました。

私は、本年5月から、マイスター・ファクトリー教室で、週1回講師を努める事になりました。教室では、6人の生徒さん達が、目を輝かせて紳士服の勉強をしています。
縁あって教室を受け持つ事になりましたが、これまでお世話になった紳士服業界に恩返しのつもりで、若い人達に、技能を伝える役目を担う事となりました。
「もう、この時代には、戻れない」と、心に浮かんだ私は、若い人達に失礼だったと思わずには居られませんでした。
戦後何も無かった時代に、日本人の知恵と熱意が経済大国へと進んでいったように、今の若い人達にも、変わらない未来があります。
時代はトルネード、同じ山は二度と来ません。経験と工夫は熟練者が、発想とエネルギーは若者が、それぞれの能力と役割を活かすなら、終戦間もない熱気に負けない時代が見えてくると、心新たに教室へ通っています。

本日の講習会では、「技能アイデア」(水飴ジャケット)を、ご提案いたします。
「技能」は、一言で言うなら、経験を重ねる生産法です。一方「技術」は、技能を分析しムリ・ムダ・ムラを省いた、能率的な生産法です。どちらにも利点はありますが、生産される製品に、見た目が区別しにくい事から、市場が生産性の高い「技術」へと向かうのは仕方のない事でしょう。「良いものを安く」と時代は流れ、モノ余りとなった現象は、技術重視の限界も見えてきたように思います。
今こそ、人の手が織りなす「技能」が、ものづくりに活かされ、魅力ある製品として市場から注目を浴びるのも、夢ではありません。

「技能アイデア」は、素材を活かすために工夫した縫製です。表素材は「バージン・ストレッチ・ウール」と、称される厄介な生地です。表素材の特徴が読めるなら、特徴を活かす縫製法はあります。(接着芯は使用しません。ノリは極力控えました)
「張りと緩み」「直線と曲線」「熱と蒸気」の素材現象を、正しく理解することです。
 正しい縫製とは、パターンを忠実に立体化することと、素材を活かす工夫です。

お誂えの、お客様ご要望は、接客・サービスが販売員の仕事です。デザインバランスはパターンナーの仕事です。心を込めての一着縫製は洋服職人の仕事です。三者のハーモニーは、心豊かな、着やすく美しいシルエットのジャケットとして、形を成すことでしょう。




何かを、感じていただければ、幸いです。