魅力の壁

センターベントのバックスタイル・・・



この、白黒写真を見て、どのように感じられるだろうか・・・



今も現役先生の、数十年前の作品です。鮮明なストライプ柄が見事に活かされています。



洋服職人の私からすれば、見事な名人技です。



私「先生のようなお方を、天才と言うのでしょうね」

先生「昔は、上手い職人が、いっぱいいたんや」



確かに、数十年前は、私が、雲の上のように思っていた先生方が、何人もいました。(今もいますけど・・・)



昔の生地は、羅紗と言われて、重くて硬い生地でした。硬い生地に負けない仕事をするには、表地に負けない台芯を作りました。重いアイロンでコテを利かせ地の目を通す事で、良い仕上がりになるのです。上着の仕立ては、男の力仕事だったのです。



写真のバックスタイルは、決してパターンだけでは、つくり出せないシルエットなのです。



日本の紳士服の歴史も、百年を超えています。堂々と世界に胸を張って渡り合える技能があります。



イギリス・フランス・イタリー・アメリカ、それぞれの紳士服文化・歴史・仕立てに魅力があります。それだけに、携わる日本の紳士服技能を主張したくなります。



日本紳士服職人業も「魅力」という、大きな壁を乗り越えない限り、消えゆく業種となるのです。「魅力」・・・職人の努力だけでは、乗り越える事は、出来ないでしょう。

私たち年代が感じ得なかった魅力を、若い人たちが感じ表現することで、新たな紳士服職人の環境がつくられると思います。私に出来る努力は、求める若者に技能を伝える役目です。



現代の生地は、細番手の軽くて滑らかで繊細な風合いになりました。現代の仕立ては、生地に合った台芯を使います。軽くて軟らかい仕立てですが、見た目は、重たいアイロンを使い地の目を通す事で、パリッ!と張りのある仕上がりをつくります。決して「雨降り袖」を良しとはしません。表現の違いに過ぎませんが、自分の形を主張する事は、魅力につなげたいからです。



数十年前の先生の服の形は、基本が凝縮された魅力ある作品でした。

誇りを持って、日本洋服を若い人達に伝えます。.